料理上達にはコレ!料理教室に通う前に。料理がたった7日間で簡単に上達する方法。

料理にまつわるエピソード(その2)

(※とある女性の手記です)

 

いつもラストオーダー間際に来る男性がいた。

 

飲食店のクローズ(店仕舞)作業は、客席の片付け・清掃、そして調理器具の洗浄やシンクの清掃が主だが、これがなかなか大変である。そのため、うちの店では、ラストオーダーのさらに30分くらい前から(もちろんお客様には悟られない程度に)少しずつ作業を開始するのが常であった。

 

オーダーの少ないメニューでしか使わない調理器具などは、もはやその日のオーダーはないだろうと見込んで、早々に洗浄してしまうこともあった。そんな時に限って、ラストオーダー間際にそのメニューのオーダーが入ったりするのだが・・・。その男性は、そんな迷惑な(?)オーダーをする客の一人であった。そのため、その男性が店に来るようになってから、件の調理器具はラストオーダー時間が確実に過ぎるまで洗浄しないようになった。

 

ある日、その男性が、ラストオーダー時間を数十分過ぎてからやってきたことがあった。余程急いで走ってきたのか、汗をびっしょりかきながら、肩で息をしている。

 

「もう、終わりですか」

 

さすがに数十分も過ぎているとあって、件の調理器具の洗浄も開始されていた。しかし私は、懇願するような、眼で訴えかけるような、そんな彼の顔を見て、思わず答えてしまった。

 

「つくりますよ」

 

洗浄を担当していた店員からぶつぶつと文句を言われながら、私はいつものメニューを作る準備をするよう指示を出した。そして自ら、その料理を作り始めた。

 

「ありがとう」

 

出された料理を前に、彼は満面の笑みでそう言ってくれた。自分よりは恐らく年上だろうと思われたが、私は素直に、可愛いと思ってしまった。

 

よく考えてみれば、私はその日、彼からオーダーを受けていない。なのに、勝手にいつものメニューの料理を作り、彼も当たり前のようにそれを受け入れてくれた。そう、さも当然のように。至極自然な感じで。

 

それを機に、私たちはよく会話をするようになった。そして私は現在、昼の弁当を含めて一日3食、その男性の食事を作る立場にいる。

 

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