料理にまつわるエピソード(その9)
(※とある女性の手記です)
「あなたのは、ただこねくりまわしてるだけね。」
先日、母に言われたこのセリフは、私の胸にかなり深く突き刺さった。小さいころからあれやこれやと口うるさい母ではあったが、記憶の限りでは生まれてこの方、一番ショックを受けたセリフかもしれない。
花嫁修業というつもりではないが、私は社会人になってから異常なほど料理に凝り始め、その腕前には相当な自信があった。友人らに手料理を振舞うことも珍しくなかったし、何より恋人から「お前は料理が本当に上手い」と、毎日のように賛辞をもらっていたのだ。
その日、私は初めて母に、自慢の料理を振舞った。
ちなみに私の母は、いわゆる「料理評論家」を自らの肩書きとしており、各種メディアにもしばしば登場するような人だ。
世間的にもかなりの辛口&高飛車キャラで売っているので(料理を点数で評価するようなテレビ番組で、他の評論家が軒並み高い点数をつける中、母だけ最低点をつけたりすることもよくあった。ただ、その後延々と母の口から発せられる低評価の理由は、私的にはいちいち納得のいくものではあった)、私も何か言われることは覚悟していたのではあるが・・・それでも最終的には認めてもらえるだろうと高を括っていたのだ。
それが、冒頭のセリフのみ、はい以上、である。まさに「吐き捨てる」といった表現がピッタリであった。
「美味しい」でも「不味い」でもない。ただ、こねくりまわしてるだけだ、というのだ。それがどういう意味なのか。母に聞きただしたところで、絶対にそれ以上答えないことは、彼女の性格を知る私が一番よく分かっている。私は泣きたい気持ちを抑え、ただただ俯いて黙るしかなかった。
この出来事が、私に再び火をつけた。
自分で言うのもナンではあるが、前にも増して料理への執着は異常を極め、仕事より、そして恋人との付き合いより、とにかく料理の腕前を上げることを優先するようになった。
いつの日か絶対に、母を唸らせる料理を作ってやる。誰もが認めるような高みに到達してやる。今はそれだけが、私の生きるモチベーションだ。