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料理にまつわるエピソード(その10)

(※とある男性の手記です)

 

おれの親父は、いわゆる昔気質の古い考えの人間である。

 

そのため、「男子厨房に入るべからず」とは、親父のためにある言葉ではないかと思うくらい、台所に立つことはおろか、料理や食事に関する一切合財をやらなかった。それをやるくらいなら死んだ方がマシだ、くらいの勢いであった。

 

お袋は、(料理や食事のことに限らず)そんな親父の言うことに、おれの知る限り100%黙って従う人間だった。最初は抗っていたもののもはや諦めてしまったのか、それとも最初から男に黙って従うタイプの、これまた古風な人間だったのかは、おれの知るところではない。

 

去年結婚し、独立した家庭を持ったおれが、そんな両親を家に招いたのは、雪のちらつく寒い冬の日だった。

 

昔気質ではあるが、おれにとってはそれほどとっつきにくい親父という訳ではない。久しぶりに会うこともあって、みんなでこたつを囲みながら、積もる話で盛り上がった。

 

ではそろそろ食事にしましょうと妻が言い出したので、あらかじめ彼女と打ち合わせていた通り、まずはおれが得意のサーモンマリネを振舞おうと台所に入っていったその瞬間・・・。

 

親父がぼそっとつぶやいた。

 

「お前がやるのか?」

 

一瞬で、その場が凍りついた。そして、あからさまに変な雰囲気を醸し出している親父がいる。

 

「あぁ、最初の酒のつまみだけな。」

 

あれだけしゃべっていた親父が、その後、ムスっとして一言もしゃべらなくなった。おれは構わず台所でサーモンマリネを作り続けたが、その間、お袋含めて3人のその場を、何とか取り繕おうと必死になっていた妻の苦労たるや、どんなに労っても足りないかもしれない。

 

結局、おれのサーモンマリネには全く手をつけないまま、それからほどなくして親父は用事があると言って一人で帰ってしまった。雪の降る中、手袋も、傘も、おれの家に忘れていったまま。

 

あれから親父とはまだ話していない。どういう顔をして会ったらいいのかもよく分からない。お袋によれば、あれ以降も特に変わったところはなく、以前と同じ普通の親父でいるようなのだが、おれに面と向かった途端、またあの変な雰囲気を醸し出しそうで怖いのである。

 

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