料理にまつわるエピソード(その11)
(※とある男性の手記です)
我が社は、全国にレストランチェーンを展開している。庶民的な料理とリーズナブルな価格が話題となり、近年も積極的に出店を進めている。そのため、社員の採用活動にも余念が無い。
採用活動というのは、我々にとっても、業界外の人間の意見や考え方が垣間見られる機会であるので、非常に勉強になる(会社を一歩出れば、応募者の方もお客様なのだ)。正直、業界の中にいる人間ではなかなか見えなくなってしまっていることを、応募者から改めて教わることも多い。私はそれを「気づき」と呼んでいるが、こう何ヶ月も面接を続けていると、毎日が「気づき」の連続で、終わった時にはなんだか自分が生まれ変わった気分になる。それくらい刺激的なのだ。
今回、多くの採用応募者が、当業界を志望する理由として「食」の大切さを挙げた。そしていかに自分がその世界に携わりたいか、「食」に対してどんなに熱い想いを持っているかなどを、一生懸命語ってくれた。
そんな話を毎日のように聞いているうち、忘れていた何かが自分の中で頭をもたげてくるのを感じた。
思えば、自分も新入社員の時は、美味しいものを提供したい、お客様を喜ばせたいといった使命に、それはそれは燃えていたものだ。それがいつしか、毎日の業務に忙殺され、仕事の泥臭い側面や慣れといったものに押し流され、ただただ作業をこなし、時に愚痴をこぼし、休日を心待ちにしているだけの人間になり下がってしまった。
応募者と話を続けているうちに、若い頃の熱い気持ちを思い出したのだ。自分は、応募者にここまで語らせたらしめる「食」に携わっている。その最前線で、長年活躍してきたというプライドもある。
今、もう一度初心に帰って、「食」に対して真摯に向き合う時が来たようだ。