料理にまつわるエピソード(その26)
(※とある女性の手記です)
料理の腕前には自信があった。小さい頃から母と一緒に台所に立ってきたせいか、そして父親の職業が料理人であるせいか、自分でも舌は肥えているほうだと思っているし、料理も人並み以上に出来る自負があった(ちなみに全くの余談であるが、以前、父親が料理人にも関わらず、家ではほとんど料理をせず、食事を用意するのはやっぱり母親であることを知った私の友人が、すごく違和感を覚えていたことがあったけど、色々な人に話を聞いてみれば、珍しくも何でもなく、全くもって普通のことのようである)。
ところが、今の旦那には、料理のことで何度となく鼻をへし折られている。一言で言ってしまえば、旦那の好き嫌いが激しくて、食に関してはやたら気難しいところがあるといったことに尽きるのだが、特に最初のうちはとにかく苦労が続いたことを覚えている。
腕に自信があった私は、旦那と結婚する以前から、リクエストされた料理が何であっても、概ね期待通りに提供することが出来たし、必要であれば時間をかけて凝ったものやユニークなものを作って、人々を喜ばせ、かつ唸らせることも多かった。これといって他に取り柄のない私ではあったが、こと料理に関しては、完全に天狗になっていたと言っても過言ではない。
そう、その長い鼻を、旦那には何度となくへし折られてしまったのである。出す料理出す料理、ことごとく注文をつけられ、細部を指摘され、「微妙」「納得がいかない」などといった言葉で片づけられてしまうことが多かった。いやはや、「まずい」という直球ではなく、「微妙」という変化球(?)は、本当に便利な言葉である。
だけど旦那のそういう面によって、私自身、非常に勉強になったことも確かである。挙げていけばキリがないが、主だったところで言えば
・料理は手間をかければいいというものではないこと
・味に絶対というものはなく、人によって評価が大きく変わることがあること
・だからこそ、時には柔軟にパーソナライズすることも必要なこと
などなど。
今考えれば、天狗になっていた頃の私の料理は、完全に独りよがりで、受け手(食べる側)に「おいしいでしょ?素直にそう言いなさい」と無理強いするようなエゴがあった。それを見事に、打ち崩してくれたのが、他ならぬ旦那なのである。
こういう話を旦那にすると、してやったりのドヤ顔で、すべては計算ずくだったというようなことを言うけれど、どこまで本当なのやら・・・(笑)。まぁそれでも私が、彼に感謝していることは間違いのないことなのだが。